求人記事を書き上げて読み返したとき、「これ、社名を差し替えても成立するな」と感じることがあります。
会社の概要も、社長のコメントも、事業の説明も、過不足なく並んでいる。先方に出せば一発で通るし、そのまま求人ページにも載せられる。それでも、どの会社のものとも言える原稿になってしまう。
原因をたどると、多くの場合、その会社のなかで掲げている言葉がないか、あっても社内に浸透していないことに行き着きます。
一朶の雲はこれまで、採用の領域で多くの企業を取材し、求人記事や採用ページの原稿を手がけてきました。その取材の現場で見えた「浸透していない会社に共通すること」を、3つにまとめます。
この記事の要点
ミッション・ビジョン・バリュー。最近はパーパスという言い方もします。
取材先のホームページを開くと、たいてい載っています。掲げている言葉が見当たらない会社や、ホームページの言葉と社長が目の前で話す内容が一致しない会社も、採用取材ではそう珍しくありません。
ただ多いのは、言葉そのものはちゃんとある会社のほうです。問題は、言葉の有無でも、言葉の出来でもありません。
「先代からある理念です」「朝礼で唱和しています」。言葉を選んだ理由が、社内のどこにも残っていない。
「お客様のために、という感じですかね」。問い返しても、具体的なエピソードが出てこない。
仕事を受けるか、価格をどうするか。迷ったときに、その言葉に立ち戻らない。
社員が自分のエピソードで語り直せる。判断に迷ったとき、「うちは〇〇だから」と自然に言葉が出てくる。
浸透しているかどうかが分かるのは、取材の場で「なぜ、この言葉なんでしょうか」と聞いたときです。
浸透していない会社では、「背景はよく知らないんですが、先代からある理念です」「社訓で、朝礼でみんなで唱和しています」といった答えが返ってきます。その言葉を選んだ理由が、社内のどこにも残っていない。誰の物語のなかで生まれた言葉なのかが、分からない状態です。
浸透している会社は逆です。一言一句そのまま言える人がいる。自分なりの解釈に置き換えて語る人がいる。ひとつ聞くと、五つ返ってくる。
言葉は、背景まで語られて初めて機能します。見分ける方法は、その言葉の「なぜ」を語れるかどうかです。
浸透の度合いを測るいちばん簡単な方法は、社長ではなく社員に同じ質問をしてみることです。
浸透していない会社では、社員の答えが抽象的になります。「まあ、お客様のために、という感じですかね」。嘘ではありません。ただ情報が足りないので「たとえば、どんなお客様ですか」と問い返すと、そこから先がはっきりしない。
浸透している会社では、細部が出てきます。「去年こういう案件があって、そのとき上司がこう言ったんですよ」。取材する側が聞きたいのは、まさにこういう話です。
この違いが効いてくるのは、社内ではなく社外です。
会社の言葉は、社長の口から出た時点では、まだどこにも広がっていません。社員が自分の言葉で話し直したときに、はじめて外へ出ていく。社員の説明は、いわば伝言ゲームの起点です。その先には、お客様、求職者、取引先、社員の家族や友人がいます。
起点の精度が低いと、結果は2通りです。広がらないか、ゆがんだ形で広がるか。やっかいなのは後者です。会社が予期しない形で伝わると、世間の認識と自社の認識がずれたまま評判として定着します。ブランドが傷つく。求職者とのマッチングがずれる。魅力的な会社だと思ってもらうきっかけが失われる。
誤解されやすいのですが、浸透とは、全員が理念を暗唱できることではありません。日々の仕事の判断の基軸になっている状態のことです。
この仕事は受けるべきか。この値段で出すべきか。このお客様とどう向き合うべきか。判断に迷ったときに立ち戻る場所がある、ということです。
浸透している会社では、社員の口から「うちは〇〇だから」という言葉が自然に出てきます。逆に、判断の場面で一度も使われない言葉は、どれだけきれいでも浸透しません。自分が納得していない言葉は、受け取る側にとってノイズでしかないからです。
浸透していない会社を取材しても、ひどい記事にはなりません。書く側はプロなので、素材が薄ければ薄いなりに形にします。AIに書かせても、それなりのものはできます。
できあがるのは、無難な記事です。
取材の場で固有の話が出てこないと、書ける材料が一般論しか残りません。「地域に根ざした」「お客様第一」「社員を大切にする」。どれも嘘ではない。でも、どの会社にも当てはまるので、耳に残りません。
求職者は、ホームページや求人媒体の記事を、必ず他社と並べて読みます。一般論だけでできた記事は、比較の土俵に上がった瞬間に負けます。選ぶ理由がないからです。
自社のオウンドメディアでも、会社案内でも、SNSでも、同じことが起きます。社内で言語化されていないことは、外にも出ていかない。基軸のないコンテンツほど、長く運用するほどぶれていきます。取材はした。記事も出た。きれいな採用ページもできた。それでも応募につながらない。採用の現場で、そうしたケースを何度も見てきました。
求職者が求人のどこを見ているかは、求人に応募が来ない会社に足りないのは、文章力ではないで詳しく書いています。
一朶の雲は、フリーランスから法人になるタイミングで、ミッション・ビジョン・バリューをつくりました。
理由は2つあります。
ひとつは、属人性をなくし、仲間づくりを円滑に進めるためです。主語が「田中慎太朗は」から「一朶の雲は」になることで、代表がいなくても、同じ旗を掲げる共同体として仕事ができるようになります。
もうひとつは、コモディティ化を避けるためです。広報やPRを支援する会社は、熊本にも全国にもたくさんあります。「うちもできます」の横並びに入った瞬間、選ばれる理由は価格だけになる。それは避けたいと考えました。
つくってみて、変わったことが3つあります。
まず、受ける仕事と受けない仕事の線が引けるようになりました。「自分たちだから発揮できることか」という基準ができたので、判断が速くなりました。
次に、納得できる金額を提示できるようになりました。提供価値が言語化されていないと、価格の根拠が「相場」しかなくなります。言語化していれば、その分の対価を、こちらも相手も納得した形で出せます。
そして、ブランドが傷つきにくくなりました。判断の基軸があると、目先の売上のために自分たちらしくない仕事を取る、ということが起きにくくなります。
一朶の雲は、MVVづくりを創作だとは考えていません。発掘だと考えています。
芯のある言葉は、作り出すものではなく、見つけ出すものです。見つけ出すために、次の順で進めます。
この順番で進めると、どこかで「あ、それだ」という瞬間が来ます。誰かが新しく発明した言葉ではなく、もともと社内にあった言葉が輪郭を持つ瞬間です。
この手順が効くのは、第三者が入るからです。自分たちのことを自分たちで振り返るのは、実はかなり難しい。当たり前になりすぎて、価値が見えなくなっているからです。「うちは普通ですよ」と言う会社ほど、外から見ると普通ではない。取材の現場で、何度もそういう場面に出会ってきました。
言葉にして共有すれば、全員が腹落ちするわけではありません。文章を読んで自分の仕事に接続できる人もいれば、言葉だけではどうしてもぴんとこない人もいる。100人いれば、100通りの解釈があります。
だから、文字でも、声でも、映像でも届ける。単発ではなく、中長期的にコミュニケーションを重ねていかなければ、浸透はしません。
自社の言葉と、社内の実感はかみ合っていますか。
一朶の雲は、経営陣と社員へのヒアリングから、会社の芯になる言葉を見つけ出す支援をしています。見つけた言葉を、記事・映像・SNSで社内外に届け続けるところまで伴走します。
言葉づくりを相談する大事なのは、いきなり言葉を決めにいかないことです。まず、材料を集めます。
具体的には、経営者自身が会社を振り返る時間をつくってください。
振り返るときの4つの問い
このとき、コツがひとつあります。何を売っているかではなく、それを通して目の前の人や地域社会にどうなってほしいかで考えることです。
「印刷をやっています」ではなく、その印刷を通して誰にどうなってほしいのか。ここを言葉にできると、事業が変わっても軸が変わらない言葉になります。
振り返るのが苦手でも、問題はありません。熱量を持ちながら冷静に見られる第三者が入ると、驚くほど進みます。
長く続いている会社には、続いた理由が必ずあります。「自分たちには何もない」ということは、まずありません。まだ見つかっていないだけです。
ミッション(使命)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(価値観・行動指針)の頭文字をとった言葉で、会社の存在意義や目指す方向を言語化したものです。最近は「パーパス」という言い方もされます。
多くの場合、言葉の出来ではなく、その言葉を選んだ理由が社内に残っていないこと、社員が自分の言葉で説明できないこと、日々の判断の場面で使われていないこと、の3つが原因です。
社長ではなく社員に、理念について同じ質問をしてみることです。浸透している会社では、具体的なエピソードが返ってきます。答えが「お客様のために、という感じ」のように抽象的なら、浸透していない可能性が高いと言えます。
大きく関係します。浸透していない会社の採用記事は一般論が中心になり、求職者が他社と比べたときに選ぶ理由が残りません。社員が自分の言葉で語れる会社ほど、求人記事にも固有の話が出てきます。
いきなり言葉を決めるのではなく、経営陣へのロングインタビューと社員へのヒアリングで材料を集め、その「ずれ」と会社の歴史を重ねて、もともと社内にある言葉を見つけ出す方法が有効です。第三者が入ると、社内では当たり前になっている価値が見えやすくなります。
一朶の雲株式会社(熊本県山鹿市)では、経営陣と社員へのヒアリングから会社の言葉を見つけ出す支援をしています。見つけた言葉を、採用記事、採用動画、SNSなどで社内外に届けるところまで一貫してご相談いただけます。
浸透していないことは、いつも小さいところに出ます。採用ページの一行。面接での一言。社員の説明。その小さなずれの積み重ねが、他社と比べられたときの差になります。
掲げた言葉に、社員が自分のエピソードで応えられる会社にする。それが採用にも、ブランドにも効いてきます。
自社の言葉を、社員に聞いてみませんか。
経営陣と社員へのヒアリングから、もともと社内にある言葉を見つけ出します。記事にする前段の整理から、採用記事・動画・SNSでの発信まで。熊本・九州の企業の言葉づくりと採用広報を手がけています。
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